「医療の現場から発信する理由」Part.1

あらゆる分野で活躍する医師の声をドクタスが取材「ドクターズインタビュー」
ドクターズインタビュー

医師に特化したヘッドハンティングサービス「ドクタス」
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長尾和宏 Kazuhiro Nagao × DOCTUS ドクタス

プロフィール-医師・長尾和宏(ながおかずひろ)-
1984年に東京医科大学卒業後、大阪大学第二内科に入局。1995年兵庫県尼崎市にて長尾クリニックを開業。外来診療と在宅医療を通して患者さんと接するにつれ、医療、社会、政治の仕組みに様々な疑問を持つようになる。タバコ問題にも取り組み、2009年5月に「禁煙で人生を変えよう~騙されている日本の喫煙者~」を出版。同年7月には参議院議員の梅村聡氏とともに「パンドラの箱を開けよう」を出版し、医療の現場からの意見を発信し続けている。

医師・長尾和宏

「医療の現場から惜しみなく発信したい」

―尼崎から永田町・霞ヶ関にもの申す、と愚直に発信し続ける医師がいるー

医療に関する様々な問題に幅広く取り組み、多くの発信を続けている長尾クリニック院長・長尾和宏医師に三回にわたりインタビューを行う。第一回目は、タバコ問題を中心にご意見を伺った。

■禁煙は予防医療の柱

こちらのクリニックでは予防医療について取り組まれていますね。


治療医学はもちろん、予防医学にも力を入れています。そのひとつが禁煙ですね。喫煙が原因で発病する癌などの病気は数多くあります。WHOの発表では毎年世界で500万人、日本では11万人以上の方が、これらの病気で亡くなっています。だから禁煙は予防医療の柱と言えます。メタボ対策でも、一番に禁煙を謳って欲しいものです。

先生は『禁煙で人生を変えよう~騙されている日本の喫煙者~』という本を、先月出版されましたね。


タバコの問題に本格的に取り組みはじめたのは公害喘息の町、尼崎の地で開業した14年前です。頻回の喘息の発作があるのにタバコがやめられない患者さんが大勢いらして…それが禁煙治療に取り組むきっかけでしたね。

禁煙を取り扱った書籍は今までにもあったと思いますが・・・



医師・長尾和宏この本は他書にない特徴が2つあります。第一に、昨年から発売された飲む禁煙補助薬について詳しく解説しました。これまで保険適応がある禁煙治療薬としてニコチンパッチ(貼り薬)を使っていました。少量のニコチンが皮膚から吸収される事で、禁断症状を緩和していきます。本書で特に詳しく解説したのは、2008年春から発売されたバレニクリンという「飲む禁煙補助薬」です。

バレニクリンはどのようなメカニズムで効くのでしょうか?


簡単に言うと、バレニクリンが脳のニコチンレセプターに結合して、もしタバコを吸っても“おいしい”と感じなくなるという、画期的なメカニズムの禁煙補助薬です。ニコチンパッチと同様、バレニクリンも保険が適用されるようになりました。



■タバコを止められないのは、意志が弱いのではなくニコチン依存症という病気である

禁煙治療の現状はいかがでしょうか?


ニコチン依存症自体が立派な病気なのです。当院での経験を申し上げますと、自力で禁煙を成功された方もいらっしゃいますが、喫煙者の7割がニコチン依存症であると言われているように、実際にはなかなか困難です。2006年、ニコチン依存症という病気が世に認知され、健康保険の給付対象となりました。もし自力での禁煙に失敗された方は、社会保険事務所に登録された禁煙医療機関を受診し、禁煙に精通した医者やスタッフとの2人3脚で禁煙治療を受けられることを是非お奨めします。そのあたりについての詳しい事情は、この本にたっぷり書きました。

先生の著書『禁煙で人生を変えよう~騙されている日本の喫煙者~』ではその辺りの事が網羅されていると?


禁煙で人生を変えよう禁煙治療だけでなく、ニコチンが及ぼす害やタバコに関わる病気、受動喫煙の問題、FCTC(タバコ規制枠組み条約*1)という大切な国際条約、タバコにまつわる税金、タバコ産業…とタバコに関する最新情報を網羅しています。またこの本には『騙されている日本の喫煙者』とサブタイトルを付けましたが…実は暴露本という側面もあります。タバコ会社の一部は官僚の天下り先になっています。この霞ヶ関の常識は国民にはあまり知られていません。そういった一般の人々に知られていない様々な裏事情も取り上げています。また日本はFCTCという国際条約を批准していながら、国会議員ですらFCTCの批准はおろか、その条約の存在自体を知らない人が多いそうです。国民が騙されている構図を分かり易く示さないと、禁煙やタバコにまつわる諸々の問題はなかなか解決されていかないんじゃないかと実感するようになったので、本書を書きました。

どうしてそのようなことになったのでしょう?


タバコ会社は営利企業です。利益追求のためにはマスメデイアを通じてタバコ広告を出したり、全国の医学研究者に研究資金提供を行っています。資金提供された医学研究者は、正面切ってタバコの悪口は言えなくなりますね。また、テレビの若者向け人気ドラマなどでは意図的に俳優の喫煙シーンを流したりしています。当然タバコ会社がスポンサーについています。また官僚は、おいしい天下り先を失いたくないという思惑が当然働くでしょう。タバコに否定的な意見やFCTCの推進という重要な取り組みについて正面から意見が述べられる事はまずありません。本書ではある医療法人の医師から寄稿いただき、特別にタバコ産業研究の章を設けましたが、官僚の天下りの現状等について実に詳しく書かれています。ある意味、とんでもなく危険な本ですね(笑)。でも、本当の事なんですよ(笑)

一部のマスコミや研究者から、タバコ会社にとって都合のいい情報や論文ばかりが発信されていると?


はい。日本においてはタバコに関する情報は、見事に操作されていると思います。先日もアンタッチャブルな問題を報道した某民放の番組がある日突然、打ち切られた実例もありましたね。経済至上主義が優先するあまり、利益優先のための報道管制があると感じます。しかし、このような規制を受けない数少ないメディアとしてネットメディアがあります。現代では貴重な発信の場であると感じます。

■禁煙は世界の流れ

国にとってのタバコ会社の立場はどうなのでしょう?


医師・長尾和宏税収から見ればタバコ会社は超優良企業といえます。商品価格の63%という高いタバコ税を集められますし、新規顧客として若年の喫煙者が次々と出てきますから、会社は常に潤ってきました。国を挙げてのそのような騙し体質が維持されている中で、このようなタバコ問題の本質のメスを入れてしまった本書は、とても新聞などでのマスメデイアは取り上げられないだろうな、と思っていました。だから複数の新聞で取り上げられた時は、よく取り上げてくれたなぁ、と正直驚きました。タバコ会社がクライアントである大手広告代理店などから相当な圧力が掛かっているのではないかと想像していました。

禁煙運動を社会的に推進するために、有効な手段は何だと思われますか?


今まで述べた禁煙治療を受けやすくする政策以外で有効な手段としては、やっぱりタバコの税金でしょうか。タバコ税の増税がもっとも現実的な手段だと思います。意外と知られていないのが、先進国の中で日本はタバコが最も安い国という現実です。だからタバコ一箱1000円法案には思わず「賛成」の垂れ幕まで垂らしてしまいました。でも本当にそれぐらい高くなればタバコをやめる人も増えるのではないでしょうか。

ニコチン依存症の健康保険適用など、世の中の流れも禁煙に向かってきていますね。


大切なことはとにかく医療の現場から発信し続けていくことです。私は産業保健の現場でも禁煙指導をしていますし、高校生や大学生向けの禁煙講座も続けています。私たちが医療の現場に身をおく人間こそが、日々いろいろなタバコ病と闘い、悩んでいるわけです。だからどう解決すべきか、勇気ある発信ができる立場なんですね。医療の現場から発信していく事は今後ますます大切だと考えています。禁煙という予防医療の輪もさらに広げて行きたいですね。




*1 FCTC…タバコ規制枠組み条約。WHOの提唱に始まり、2005年に国際条約として発効した。日本をはじめ150カ国が批准している。



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